二週間前のいつもの居酒屋。
カウンタ―には、いつもキャップを後ろ向きに被っている『キャップさん』と私の二人。
2人でのんきに話しながら飲んでいると、店に電話がかかってきて女将さんが出た。
もちろん我々はそんなことは気にしていないが、受話器を置いた女将さんは怪訝そうな表情だ。
聞けば予約の電話だったらしいのだが、
「○○さん、って言うたんやけど本名やろか?」
人の苗字を笑うなんてことはいけないことだ。
しかし、ここは居酒屋、しかも我々は酔っ払っている。
おまけに女将さんは聞き間違いの名人で、おまけに脳内変換に難があるのだ。
私とキャップさん、MえとKちゃんと女将さんで多数決を取って、聞き間違いだと決定した。
そんなおもしろい名前があるはずがない。
ともかく女将さんはその予約を受けたのだ。
聞き間違いかどうかはそのときにわかる。
土曜日、私はいつものように居酒屋に行った。
女将さんがニヤニヤ笑いながらこっそり囁く。
「今日、○○さんが来る日よ」
すっかり忘れていた。
良かった、この日に来ることができて。
この日は早く帰らなければならなかったのだが、見届けだけはしておかなければならない。
じきにキャップさんもやってきた。
「良かった~、予約の7時に間に合って」
どんなに期待しているのだ。
逆に女将さんは緊張している。
「どうしよ~、名前言われたら笑ってしまいそうや~」
「そんな失礼なことしたらいかん! 笑いそうになったら唇をギュウッと噛むのだ」
この日に入っている予約は3組。
8人と8人と4人だ。
○○さんは4人。
「ええ~、○○さんが一番大人数だと思ったのにー」
「それは頭の中で○○さんが膨れ上がっとるからや」
もう○○さん以外の話題が出ない状態で、7時が近くなってきた。
みんな緊張の極限だ。
と、入口の戸が開き、おっさんが4人入ってきた。
私とキャップさんは身構える。
「いらっしゃーい、久しぶり~」
Mえの顔見知りだったらしい。
おっさんたちは一番奥の8人席に進んでいった。
一人を残して。
残ったおっさんが言った。
「あのー、○○で予約してあると思うんですが…」
ぎゅうっ。
キャップさんと私は同時に顔を伏せ、唇を強く噛んだ。
はじけそうな思いを飲みこんでから顔を見合わせ、
「それはないよな…」
「4人組やと思うよな…」
本当に面白いのに声を出して笑えないときは本当に苦しい。
もう、名前よりもこのフェイントが面白くて仕方ないのだ。
とはいえ、○○さんが店にいる間はそんなことを話し合うわけにはいかない。
私は帰ることにした。
お勘定をして店を出るときにキャップさんとこっそり打ち合わせた。
「また後日に…」

↑そのあと4人そろったんだけど誰か○○さんかはわからないままクリックしてね。
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めっちゃ気になるけど、女将さんの聞き間違いではなかったってことやんね。