職場の裏口を出ると、深いところに溝がある。
それはすぐに川につながり、川下には水門がある。
その先は大きな川の河口部でほぼ海みたいなところなので、
水位が上がっているときは塩分があると思うのだが、この溝にカメが上がってくる。
カメはのん気なものだ。
どうやって登るのか知らないが、溝のヘリで甲羅干しをしていたりする。
鼻だけ水面に出して水の流れのままに漂っているやつもいる。
が、本当は神経質な性質らしい。
人の姿を見ると大慌てで水に飛び込み、深いところに潜っていく。
だから私は気配を消して溝を覗きこみ、カメが居たらしばらく観察してからバッと顔を出す。
パニックになっているカメの姿を見て楽しむのだ。
倉庫入り口の軒の下にハトが来るようになった。
巣でも作るつもりなのかシャッター前にふんが落ちていて困る。
ガムテープの芯を二つビニールひもで縛って引っ掛けたがあまり効果がない。
なんとかここを居心地の悪いところだと思ってもらいたい。
黙っていればわからないのに、ハトはアホなので「ホッホー」と鳴く。
だから仕事中でも「来たな」とわかる。
そーっとシャッターのところに行き、端の方から見るとハトもこちらを見ている。
でも私はハトに気付いてないふりをして、しばらくそこで様子をうかがう。
で、ハトが「ああこの人はただここにいるだけなのだな」と思ったころ、
両手をバーンと叩いて大きな音を出す。
ハトは驚いてバタバタとどこかへ飛んでいく。
そうだ、ここは怖いところなのだぞ。
徒歩通勤の時は、かなりの割合で田んぼ道を通る。
健康のための徒歩なので、なるべく車通りの少ないところを選んでいるのだ。
今の時期の田んぼはカエルの鳴き声がすごい。
それをねらって鳥たちもやってくる。
サギは警戒心が強いので、人が近寄っていくとすぐに距離をとる。
しかし、カラスは平気だ。
どうかすると田んぼから田んぼへ私の前をトットコ横切ったりする。
「人間なんて平気さ」と言っているようで生意気だ。
だから、近い距離にカラスがいると、私じゃないふりをして「あー」と言う。
ひらがなだから「あー、その話ね」の「あー」のように感じるが、
私の言う「あー」は、カラス語に近い「あー」だ。
それももちろん歩きながらだからカラスは私が言っているとは思うまい。
カラスは一度は「なんだ?」という感じで顔を上げる。
だがそこにはただの通行人の私しかいない。
再びエサ探しに顔を下げると、「あーあー」と言う。
これをくりかえし、私が通り過ぎるまでにカラスが飛び去ったら私の勝ちだ。
というような事をしているところを、人間には見られたくないと思っている。

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