最後の一個のシューマイに、坊主頭Fが残っていたカラシを全部塗りつけた。
ちょいとしたデコレーションぐらいの量だ。
「これを誰が食べるか決めよう」
塗ったのだからてめえが食え、と思うのだが、そうはならないのが居酒屋のカウンターだ。
「それはやっぱりこみやんだろう」
まったく理由もなく私を名指ししたのは、スキンヘッド4号だ。
カウンターに残った三人が食べたくない刺激物のなすり合いだ。
F「じゃんけんだ」
4「こみやんは最初はグーな」
私「こみやんは、ってのはどういう意味や」
三人ともが何かズルをしようと考えているものだから、なかなか勝負が始まらない。
もう間もなく閉店時間、おそらくサッサと片づけたいKちゃんが提案した。
「私があみだくじ作ったろ」
Fが左を選んだ。
私が真ん中を選び、線を一本足した。
開けてみると、大当たりは空欄、つまり4号だ。
「おまえがいらん線を足すからや!」
頭をペチンと叩かれた。
でも、これを食べさせられるよりはいい。
4号はグズグズ言ってなかなか食べようとしない。
すると、Fが、
「やっぱりオレが食う」
とシューマイをつかんで食いついた。
「それはいかん」
と4号が、Fの口からそれを奪って一口で食べた。
Fの上唇にはべっとりとカラシが残っている。
「辛い辛い」と騒ぐ4号と「痛い痛い」と騒ぐFに大笑いする私。
一人だけずるいと二人が騒ぐ。
「チーズのお菓子作ったろか?」
と勧めたのは女将さんだ。
これは、6枚並べたクラッカーの上にとろけるチーズを乗せてオーブンで焼いたものだ。
このチーズの下にカラシを隠して『ロシアンチーズのお菓子』を作ってくれようというのだ。
最初に4号が端っこのを食べてセーフ。
次に隣のを食べたFが大当たりで悶絶。
女将さんはにこやかな人だが加減を知らない。
Fは酔っていたので、あんなにこんもりしてたのを選んで当たった。
「こうなったらあんたも食べろ!」
業務用チューブのカラシをチーズの上に4号が出す。
「このカラシはわざわざ取り寄せている辛いカラシやよ」
女将さんがそんなことを言うから興味を持ってしまった。
ええい、食ってしまえ。
ぎゃー! 確かにこいつは辛い。
それが舌の上で粒子のざらつきを感じるほど。
そんな私を見てゲラゲラ笑う4号。
ええいお前をこれを食え。
私はチーズのお菓子にタバスコをふりかけた。
ぎゃー!
悶絶する4号。
笑いすぎて涙が出てきた。
ぎゃー!
タバスコの付いた手で涙を拭いてしまった。
大騒ぎの三人はこの季節の深夜だというのに汗まみれだ。
水をがぶ飲みして、チョコレートをもらって食べた。
ああおもしろい。
最後にFがこう言った。
「女将さん、そのカラシ、ボトルキープ」

↑その後とぼとぼと歩いて帰る道の寒かったことときたらクリックしてね。
スポンサーサイト
でもそれが大事ですね
こみさんの人間性をも感じます