最初の目覚ましが鳴る。
ふとんから右手だけを伸ばして止める。
この時、どんな体勢で寝ていても、一旦うつぶせの姿勢になる。
でないと右手が時計に届かないのだ。
もちろんこの道にかけて私は超ベテランだ。
時計なんて見なくても位置は把握している。
カメレオンの舌のように、ピュッと伸びた手が一発で不愉快な音を止める。
そしてピュッと戻って来て毛布の中に納まる。
外気の冷たさを味わった体は、ふとんと毛布、体温のありがたさを感じさせてくれる。
温かい、うれしい、ずっとこうしていたい、出たくない。
しかし、あとほんの数分でこの楽園からはおさらばしなくてはならないのだ。
私はこの暖かさに甘えるように、毛布の中でモガモガ動いてみる。
こうなった時の人体は敏感だ。
体全体がアンテナ化している。
完璧と思われたこの暖かさにひずみのようなものを感じ取る。
毛布とふとんがずれているのだ。
首のまわりに毛布が多い。
つまりふとんを基本として考えると、毛布が上に上がってきているのだ。
足センサーが毛布の末端位置を計測する。
ほうら、あと数センチで足先が毛布から出ていこうとしているではないか。
これは足が毛布の端に触れなくても、なんとなく感覚的にわかるのだ。
さっき体制をうつぶせに動かした時にずれたのかもしれない。
これをもとに戻すには、再び仰向けになる必要がある。
首元のところで毛布とふとんをそろえて固定し、足で引き下げるのだ。
この時ちゃんと首元を合わせないとさらにずれが大きくなる場合がある。
持ってみてさらに問題が発覚した。
毛布はただずれているのではなく、斜めになっている。
これは不愉快だ。
ふとんの中心に毛布があり、その中心に私は寝ていたい。
天井から私を見下ろした時、漢字の『由』のようになっていたいのだ。
さらに問題は新たな展開を迎える。
なぜ、ふとんと毛布が斜めになっていたかが、足重力センサーによって判明した。
斜めだったのは毛布ではなく、ふとんの方だったのだ。
ふとんが足元の方でベッドから落ちようとしている。
これは毛布位置の修正とは程度が違う。
なぜならふとんを元の位置に戻すには、足で上に持ち上げて移動させなくてはならない。
そんなことをすれば間違いなく外気がふとんに入ってくる。
しかしこのままでは、体がふとんの落ちていく方に引っ張られていく感じがして落ち着かない。
左足だけを犠牲にして、ベッドからはみ出させる。
うおおお、そういえば数年に一度の寒気が来ているとニュースで言っていた。
左足はふとんから出ていったわけでもないので一瞬で凍り付く。
少しだけ持ち上げ、右足の引っ張り力でふとんを引き上げる。
ここから毛布をそろえる作業だ。
よし、うまくいった。
ふとんの落下感はなくなり、毛布はほぼ中心に納まった。
安寧。
あたたか。
幸福感。
二度目のアラームが鳴った。

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しかし、必ずオチがあってさすがですね