雨は嫌い。
なのに傘を忘れた。
それも、車に、ではなく、家に。
出勤するときはまだ降ってなかったのだ。
ところが、お昼にはもう降り始め、夕方にはザンザカ土砂降りだ。
うちの会社には雨漏りするところがあるのだが、
そこが“普通の雨”ぐらいになる大降りだ。
あまりに降るので『雨雨(あめう)』という二字熟語を発明してしまった。
こんな日に傘を忘れたのはきつい。
ちづるに用事があるので、会社帰りには食料を買いに行かなければならない。
いや、それよりも車にたどり着くまでが第一の難関だ。
会社から駐車場は、私の目算で150メートル。
濡れネズミになるには十分な距離だ。
仕事もせずにどうしようと考えたおかげで、いいことに気がついた。
よく考えたら傘は車に積んであるではないか。
畑作業での日除け用ビーチパラソルが。
あれならたかが150メートル、濡れることはあるまい。
早速会社の傘を借りてパラソルをとってきた。
これで心配せずに終業時間を迎えることができた。
タイムカードを打つとき、会長の奥さんと話していたら、
いつもは待っててくれるO川とN岡が行ってしまう。
「おいおい、待ってくれよ。一人だと恥ずかしいじゃないか」
するとN岡が、
「近寄らないでくださいよ」
O川が、
「こっちが恥ずかしいわい」
冷たいやつらだ。
ともかくおかげで濡れずに車にたどり着けた。
次は買い物だ。
スーパーでは、入口に続く屋根の近くに停めることができた。
ただし、屋根は車の助手席側だ。
車を降りたら素早く移動しなければならない。
ここでパラソルを開く訳には行かないからだ。
ドアを開け、素早く飛び降り、ドアを閉め、走る。
その瞬間、グレーチングを踏んだ。
説明しよう。
グレーチングとは、金属を格子状に組んだドブのフタで、濡れるととても良く滑るものだ。
車の前部を通って屋根のあるところに行くには左カーブということになる。
遠心力に逆らうため、体は左側に傾いている。
この状態で、左足がグレーチングを踏んだ。
大人があんなコントみたいなすっ転び方をするなんて、というすっ転び方をした。
気がついたら、雨の駐車場で『裸のマハ』みたいなポーズになっていた。
ふと見ると、前の車に人が乗っている。
これは恥ずかしい。
街中でビーチパラソルより恥ずかしい。
あわてて車に飛び戻り、身を潜めた。
このまま帰ろうかとも思ったが、家には食料がない。
幸い濡れているのは左半身だけだ。
誰が見ても、
「ああ、相合傘で女の子を濡れないようにしたんだな」
としか思わないだろう。
大急ぎで買い物を済ませて家に帰った。
今、左尻と左手首が痛い。
雨は嫌い。

↑やっぱりあっちのスーパーにすればよかったからクリックしてね。
スポンサーサイト
それだけが幸いでしたね。
お大事に。