今週からクーラーボックス以外に持つカバンを変えた。
十年以上前から持っている、ジャックウルフスキンの紫のショルダーバッグだ。
文庫本とメガネ、カード入れ、目薬などの小物が分けて入れられ、
玄関の鍵も前面ネット部に入れておくと取り出しやすい。
出勤してすぐにそのバッグを棚の側面のフックにぶら下げた。
はっ! 居る!
棚の低いところに、一桁で最も大きい偶数の足を持つ忌まわしい生物が。
キーボードで打つにはあまりにもおぞましいので、仮に『久毛』と表しておこう。
まだモンスター級というほどに成長はしていないが、私の職場での生活を脅かすサイズだ。
柄の長いほうきを持ってきてそおっと標的から30センチの位置に構え……アタック!
しまった! 柄の部分が棚の枠に当たってダメージを与えることができなかった。
もちろんやつは行方をくらます。
棚の下もほうきでかき回してみるが、どこかに行ってしまったようだ。
だが、この近くにはいるはずだから、とりあえずキンチョールを散布しておこう。
ああ、棚の下から出てきたワタ埃を掃除しなくてはならない。
ちりとりを持ってきてワタ埃を掃いてゴミ箱 居たっ!
ゴミ箱の末端、結束バンドを入れるための段ボール箱の側面だ。
キンチョールのにおいに追われて棚の下からあちらに逃げたのだ。
今度は打撃を妨害する枠もないから退治できるはず。
ほうきを持ってきて標的から30センチの位置に構え……アタック!
命中! と思ったがほうきの先端のソフトな部分が当たったらしくまだ生きている。
生きているどころかまだ健康体で這って逃げようとしているではないか!
グアアアアーーー、とここで初めて大声が出た。
アタック!アタック!アタック!アタック!
声を聞きつけて表の掃除をしていた小柄子ちゃんが駆けつけ、店長が事務所から顔を出した。
「こいつです」
私は肩で息をしながら小さく丸まったやつの亡骸を指差した。
二人とも「あービックリした」と言ってすぐ去っていった。
こいつを外まで掃いていってほしかったのだが、ちょっと店長には言いにくかったので、
とても嫌だったが、私が自分で裏口のところまで掃いていき、外にロングショットした。
この事件のおかげでのぼりやワゴンを出すのが遅れ、
私は「朝礼ですよ~」と店長に呼ばれてしまった。
この日の朝礼で読むテキストのタイトルは『虫供養』だった。

↑この騒ぎの後、店長が「そういえばこないだ」と言い出したのだけどクリックしてね。