母は自主的に自力でトイレに行くこともできるのだが、
膝が痛くて立ち上がるのが困難だと、紙パンツを頼ってしまうこともあるようだ。
もちろんそれでもかまわないのだけど、回数が過ぎたり穿き方が甘いと漏れてしまうことがある。
なので、私たちが行っているときは時間を見てトイレに誘導するようにしている。
母はたいていこたつの椅子か食卓の上座に座っている。
こたつの椅子に居るときも、私たちが行くと食卓に来る。
その母の席の真正面に見えるのがリビングと玄関を仕切るドア。
その向こうにトイレがあって玄関だ。
このドアには母にわかるように『トイレ』と書いた紙が貼ってある。
私たちが「そろそろ…」と勧めて母がトイレに行く気になったら、
このドアを開け、閉まってこないようにフックをかけて母を待ち構える。
母はよちよちと歩行器を押してくるが、トイレのドアを開けるにはこの歩行器がジャマだ。
なので母がトイレ入り口の手すりにつかまったら、歩行器を受け取って玄関側に後ずさる。
で、十分なスペースができたら、ドアの戸を開けて母に中に入ってもらう。
この時、ちょっとだけ私がひそかなお楽しみにしていることがある。
私が歩行器を受け取って後ずさると、母がちょっと反応するのだ。
後ろを見ずに下がるので、私が玄関に落ちてしまうと思うらしい。
ゆっくりちょっとのバックだと「後ろを気を付けろ」という注意。
もうちょっと早く大きく下がると「危ないぞ」という心配。
素早くギリギリまで下がるとびっくりするのだ。
もちろん左右の壁や柱が見えるから距離感はわかっているし、
母用の手すりが設置してあるから落ちることはない。
母が無気力だったりぐずったりしたときは刺激を与えてやろうとちょっと大きく下がったりする。
すると母は少しハッとする。
ハッとした後、一呼吸置いて「あんた、気を付けないな」と注意することもある。
調子に乗って忍者のようにササッと素早く動いたこともある。
そんな時、母が自分の爪や床のゴミを気にしていてスルーされると、ちょっと恥ずかしい。

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