昨年父が亡くなって以来、母は実家で一人暮らしをしている。
記憶を自由に操り、財布を隠したり寿司を注文したりしたことがあったので毎日電話をかける。
ケアマネさんや市の人やお医者さんやそこらへんで立ち話した人でも言うことは共通していて、
「会話をすることが一番」なのだそうだ。
電話をかけるタイミングが難しい。
朝は10時半までだと、洗濯物を干していたりする。
膝が痛くて歩くのが遅いから、10回のコールでは間に合わない。
留守番電話に切りかわってしまう。
最近の私の感触では、11時を過ぎてからの方が出る率が高い。
洗濯物を干し終えて、電話の横に座ってテレビを観ているのだ。
昼前になったら食事の準備にかかるだろうし、食後は1時まではドラマを観る。
しかし、昼過ぎはこちらが忙しいので電話をしていられない。
なので昼前のタイミングを逃すと、夕方電話をすることになる。
夕方5時前に電話を掛けてみた。
10回のコールで出ないが、こういうのはよくあることだ。
トイレに行っていたり、風呂の掃除をしていたり、雨戸を閉めに行っている場合があるのだ。
しばらくしてからもう一度掛けてみたが出ない。
ノボリを片付けて掛けてみたが出ない。
床を掃いて掛けてみたが出ない。
マグカップを洗って掛けてみたが出ない。
腕立て伏せをしようか迷ってから掛けてみたが出ない。
ははん、わかったぞ。
これは仏壇のある部屋に行って、父の遺影としゃべっているに違いない。
母は『写真のおじいさん』と呼んで、実在していると思っている節がある。
とはいえ緊急事態がないとは言えない。
だとしたら実家まで見に行かなければならないではないか。
明日は土曜でどうせ病院と買い物に行くのだし、今日私はジムに行く予定なのだ。
連休でなまったからだを絞りたくて仕方がないのだ。
カロリー制限をするにあたり、心のよりどころとしてちょっと体重を減らしておきたいのだ。
ジムは会社と実家の中間あたり、ほぼ通り道にある。
しかし、実家に行ってからジムに戻ったとしたらオープン時間に間に合わない。
母の無事を確認してとんぼ返りしたとしても、ロスタイムができる。
そうすると、終わるのが遅くなり、最終食事が9時を過ぎてしまうのだ。
それからも数分おきに電話をしてみるが出ない。
いよいよタイムカードを押す時間が来た。
出ない。
最後の最後、車に乗ってから電話をかける。
「おお~、表の部屋でおじいさんとしゃべっとったんや」
やっぱり。
まあそれならいいわい。
そして、ジムの用意をまるっきり忘れてきていた私は、そのまま帰宅したのであった。

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