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裏表左右内外

母を連れて病院に行った。
この日はいつもの診察だけでなく、後期高齢者の健康診断と、
インフルエンザの予防接種もするので、予約を取って早い時間に出かけた。
普段なら病院をとても嫌がるのだが、ずっと前からイメージトレーニングをして、
「断れない」「行って当たり前」と刷り込んできたので、すんなり行ってくれて助かった。

しかし、病院に行ってからは文句を言い通しだ。
注射が嫌いだの、心電図の吸盤が冷たいだの、レントゲン室が遠いだの、
もはや厚着の駄々っ子だ。
それをなだめたりすかしたりしながら作業を進めていく看護師さんには頭が下がる。


検診が終って先生の診察の順番を待っていた。
退屈になったのか靴下をいじっていた母がこんなことを言った。

「この靴下、裏返しと違うかねえ」

見せられたくるぶしのマークは何のマークだかわからない。
裏から見てもわからない。

「スリッパを脱いで先っぽを見てみ」

と指示する。
縫い目が立体的に飛び出しているから裏返しなのがわかった。

「まだ時間がありそうやから履きなおすわ」

母はそれを脱いで履きなおした。
で、今度は反対側の靴下のくるぶしのマークを気にし始めた。

「これ、裏返しと違うかねえ」

右足が裏返しなら、左足も裏返しだろう。

「スリッパを脱いで先っぽを見てみぃ」

縫い目が立体的に飛び出している。

「やっぱり裏返しやわ。履きなおそ」

これで一件落着。
と思いきや、母が私に声をひそめてこう言った。

「ちょっと、私うっかり靴下を左右逆に履いてきてしもたわ」

見ればくるぶしにあるマークが内側に付いている。
理屈を考えてみたらそりゃそうなるだろう。

「履きなおそかいな」

「もうそろそろやからそのままでええ」

「そやけど、これ見た人が『あの人靴下を左右逆に履いとるわ』って思わへんやろか」

「誰が年寄りの靴下に興味あるんや」


母はこのまま診察を受けて帰るのだが、その前に靴下より大変な事態が起こった。
誰かが母の靴を間違えて履いていってしまったのだ。
もし返しに来てくれた時のために連絡先を受付に伝え、
母は私のジム用の靴を履いて帰宅した。

母は「もう二度と病院なんか行かへん!」と怒っている。






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耳じゃない
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[ 2020/11/08 08:25 ] 身内のこと | TB(0) | CM(5)
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こみ

  • Author:こみ
  • 三重県在住。
    妻のちづると二人でダラダラ暮らしています。
    晴耕雨読が理想です。
    記憶を自在に操る一人暮らしの母のところへ通ったりもしてます。


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