木曜日にして火曜日以来二度目の徒歩出勤だ。
水曜日はちづるの車を車検に出すため、自転車で早く帰って車屋さんに行った。
木曜日はそれを取りに行かなければならなかったのだが、早足で歩くことにした。
月曜日はどうして歩かなかったのか、もう覚えていない。
帰りに早足で歩かなければならないと思ったら、自然と行きから勢いが付く。
行ってきます、のあと、私は玄関から飛び出した。
角を曲がり公園を突っ切り広い道に出たこと異変に気が付いた。
これはしまったことをした。
靴の中では異変が起きていた。
なんだかどんどん背が高くなっていく感じがする。
そうだ、この靴下は歩いていると少しずつ下がっていき、
かかとを通り過ぎ、土踏まずの辺りでダマになるやつだ。
もちろん会社に行かなくてはならないから歩みを止める訳には行かない。
なんとかこう、歩き方を変えて靴下が下がらないように工夫する。
とはいえ、下がると決めた靴下は決して下がることをやめようとはしない。
逆にもがけばもがくほどおかしな歩き方になって疲れるばかりだ。
ヘタをしたら膝なんかを痛める可能性がある。
こうなったら堂々と歩こう。
だいたい、気持ちが悪いのはかかとを過ぎるあたりまでだ。
両足の靴下がきれいに土踏まずに溜まればそういうものだと思うことができる。
むしろ土踏まずを刺激して疲れが取れるかもしれない。
『喉元過ぎれば熱さを忘れる』というのは上半身の言い伝えだ。
下半身は『かかと過ぎれば下がり靴下も心地いい』にしてほしい。
ほうら慣れれば平気だ。
足の裏では靴下がつま先オンリーになっているが、もう気持ち悪くなんかない。
この出来事で、そろそろ長い靴下に衣替えする決心も付いた。
すがすがしい気分だ。
私は調子よく田んぼの間の道を歩いていた。
あっ、しまった。
両手でニギニギしていた握力ニギニギの右手のが手から離れた。
この日はショルダーバッグで通勤していたので、振っていた右手がバッグに当たったのだ。
右手を離れた握力ニギニギは放物線を描いて田んぼわきの側溝に落ちた。
ちゃぽん、
だったらよかったのだが、あの感じを表現するのなら、
とぷ、だ。
なんだか水にとろみがあるのだ。
しかも、そこには大量のヘドロ層があり、握力ニギニギはその下に潜り込んでしまった。
一旦浮かび上がろうとしたそぶりは見えたが、ヘドロに捕まってしまい姿を見せられないでいる。
なんとなくその玉子型のふくらみがヘドロの表面に確認できる。
田んぼがあるのに別に側溝があるということは、生活排水が流れているだろう。
近くに家が数軒あるし、農業用水用のポンプが別に設置されている。
きれいな水ならあのとろみは出ないだろう。
ここに手を入れる勇気はない。
しかも、近くにこれを洗う場所もない。
諦めた。
一個になった握力ニギニギを左右交互にニギニギしながら会社に向かった。
帰りにホームセンターで買うとしよう。
いや、帰りは早歩きで帰らなければならないんだった。

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