あれは幸せな時間だった。
体がフワフワと空に浮かんでいるような気持だった。
それほど身軽だったのだ。
だって、小銭が一円もなかったのだから。
たかが小銭とあなどるなかれ。
私はズボンの右ポケットに財布を入れているが、小銭が沢山あるとバランスが悪くなる。
真っ直ぐ歩けず徐々に曲がっていってしまうのだ。
行きはなんとか会社にたどり着くことができるが、
帰りだとちょうちんの明かりの方へいつの間にか進路がずれていたりする。
いつもの居酒屋はありがたい。
メニューには50円や80円というハンパがあるのだが、
支払いの時には、切り上げか切り捨てか四捨五入が行われて百円単位になる。
小銭でも、500円玉や100円玉だと気にならないから不思議だ。
ともかく、なんの買い物でちょうど小銭が無くなったか忘れたが、
ずいぶん長い間小銭ゼロ生活をしていた。
こうなると小銭を作りたくなくなる。
通勤道の自動販売機は千円札でも使えるし、百円コーヒーも売っているが、
どうせ小銭がないならと、がまんして自分で沸かすインスタントコーヒーを飲んでいた。
えらいものでこうなるとコンビニにも寄らない。
コンビニならカードで買い物ができるのだが、買い物自体をしなくなったのだ。
ヘルシーで経済的だ。
が、どうしてもお金を使わなければならない事情ができた。
先週の土曜日、Mえの妹の彼氏の誕生日のプレゼントだ。
そんなに深い関係ではないので、適当に語呂で安いものを選んだ。
あまりにプレゼント感が無かったので百円ショップに行き、
オシャレな紙袋と貼りつけるリボンを買った。
私は買い物の時に小銭をできるだけ出すタイプだ。
小銭がいくらあるか把握していて、できる限り消費したい。
しかし、計算は苦手だ。
だから何を間違ったのか、二軒の買い物で千円を超える小銭ができてしまった。
なのに居酒屋にはちづるがふらりと来て払ってくれたし、
二軒目のカラオケはオーナーが払ってくれたので小銭は減らなかった。
翌日、本屋さんに行った。
何冊か選んでレジに並ぶ。
店員のお姉さんが「ポイントがありますが使われますか」という。
いや、小銭を払う。
支払いは、2128円だった。
なに、覚えのある数字だぞ。
千円札を一枚と小銭を全部出してみた。
なんと、2028円だ。
うわー、あと千円出して900円のおつりか~
と思ったが目の前に900円小銭があるではないか。
算数ができない恥ずかしい人だと思われる。
そこで気付いた。
ポイント!
こうしてまた小銭ゼロ生活を私は取り戻した。
火曜日は居酒屋の払いも、二軒目のモスバーガーも、ちづるへの持ち帰り分も、
なぜか坊主頭Fが払ってくれた。
そんな事でいいのか、とは思うのだがゼロ生活はいいものだ。
さて、今日はどうなることか。

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