昨日、録画してあったら落語を観ていたら、こんなフレーズが出てきた。
「おかみさん、絶対人に言っちゃうでしょ」
「なに言ってんだい、あたしゃ口が堅いんで有名なんだよ」
これは落語に限らず、世間一般でよく使われている。
さあ、あなたならこの“口が堅くて有名”な人を信用できるだろうか。
まず問題になるのは“有名”の部分だ。
本当に口が堅くて秘密を人に話したりしない人だったとしよう。
でも、この人が秘密を持っていることは周りに漏れているのだ。
これは『完全犯罪とは何か』という問題に似ている。
名探偵にそのトリックが見破られなかったら完全犯罪か。
逮捕されても警察がそれを立証できなかったら完全犯罪なのか。
事件が迷宮入りし、犯人が疑われさえしなかったら完全犯罪なのだろうか。
『完全犯罪とは、事件があったことすら誰にも知られないことだ』とする説がある。
だとしたらこのおかみさんは、完全犯罪にはあたらない。
「捕まったってあたしゃ絶対しゃべらないよ」
というレベルの犯人なのだ。
本当に口が堅い人なら、周りにいる人が「この人は口が堅い」と気づかないはずだ。
むしろ「なにも秘密を持っていないところを見ると、誰もこの人に相談しないんだな」
と、口が軽いと思われがちである可能性が高い。
秘密自体をないことにする、それこそが本当に口の堅い人なのだ。
更に、このことからわかるように、この“口が堅くて有名”な人たちは、
本当に秘密を漏らしたりしていなかったとしても、
『まだ、秘密を漏らしていない』という段階にいるに過ぎない。
本当に口が堅いかどうかは、その秘密を墓まで持って行って初めて証明される。
この人の立場は『まだしゃべってはいないが、秘密を持っていると知られている人』だ。
そしてこの人が口が堅いと“有名”だとしたら、
身近には知ったことを吹聴して回る人間がたくさんいるということになる。
こんな危険なことがあるだろうか。
うっかり一言漏らしたら、それを有名にしてくれるグループなのだ。
もう一つ疑わしいのは、この人が聞きたがりだということだ。
「私は口が堅いのだから安心して秘密を打ち明けなさい」と勧めている。
「あの人は口が堅くて安心だから相談してみよう」と打ち明けられたのではない。
本当に秘密をしゃべらない人が、他人に「秘密をしゃべりなさい」と言うだろうか。
落語ではなく実際にそんな事を言う人を思い出してみよう。
数人思い浮かんだ。
「お前、噂で○○って聞いたけど、俺は口が堅いから話してみ」
なんて居酒屋のカウンターで話させようとするやつが信用できるか!
それどころかあることないこと尾ひれがついて、
翌日には常連みんなに知れ渡り、どうかするとメールで確認されたりする。
ヘタをしたら、紙に書いて張り出されるのだ。
なのに彼らは自分は口が堅いと思っている。
あれだけベラベラしゃべっておいて「大事なことは言ってない」と思っているのだ。
この部分はしゃべっていい、と勝手に判断しているのだ。
さて、最初に登場した『口が堅くて有名なおかみさん』だが、
こういう人がうじゃうじゃいるところを想像してみよう。
果たしてそのうちの誰かに秘密を打ち明けようと思うだろうか。
みんなわかっているだろうからはっきり言おう。
なにか宣伝したいことがあったら、その人にしゃべるといい。

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