私は職場に8時20分ごろに着く。
ラジオ体操して機械を拭いてヤスデを掃いたりしている。
機械にウォーミングアップさせたいし、倉庫にはワゴンが5台も納まっている。
店のオープンが9時なのでその前にのぼりを立ててワゴンを店前に並べる。
店の中の準備をしていたSちゃんが自動ドアをオンにして出てきた。
「あの人さっきからずっといるんです」
私も気になっていた。
ウチの店に入る信号の辺り、歩道橋の上り口に女の人がいる。
私が出勤した時にはすでにいたので、かれこれ40分はそこにいるだろう。
髪の長い、四十代ぐらいの細身の人で、
不思議なのはサンダル履きで手にはケータイしか持っていないことだ。
こんな身軽でなぜこんなところにいるのだろう。
少し離れたところに民家はあるが、そこからならこの道には来ないはずだ。
近くのお店に用事があったなら、その店の前で待つだろう。
例の女の人が一度電話を掛けていた。
この場所だと車の迎えを待っているに違いない。
非常事態で迎えを頼んだのか、待ち合わせに相手が遅れているのか。
どちらにせよ、迎えに来た人をみれば何か推理できるだろう。
よし、この人を観察して、待ち人を目撃できたらネタにしよう。
とはいえ何もせずに、何もしていない人をただ観察するわけにもいかない。
まず、靴下の洗濯をすることにした。
洗剤と水を入れて観察、ごしごし洗って観察、干して観察だ。
と思っていたのに、水を入れた段階で仕事が入った。
しかたがないので、一つ材料を出しては観察、もう一つ出しては観察。
そうしていたら、社長が取りに来る荷物を出せと言われた。
すんなり仕事をしていたら終わっているはずの仕事が終わっていない。
社長の荷物だけは先に出しておこう。
女の人は相変わらず待っている。
車が来る方向を見たりしていたが、やがてしゃがみこんでしまった。
どうして歩道橋の入口にいるのだろう。
階段の裏側に回れば日陰だし、車もそちらの方向からくるのに。
あっ、お客さんだ。
大きなワゴン車が私と女の人の間に停車した。
彼女は私の視界からさえぎられてしまったのだ。
あっ、洗濯するのを忘れていた。
でも、もうすぐ社長が来るから、その時に洗濯していたら具合が悪い。
裏口から出た外の流し台で洗濯するのだが、
戸を開けたままにして、社長が来ないか観察しながら洗濯した。
ワゴン車のガラス越しに歩道橋あたりを見る。
まだいる。
もう9時40分だ。
一仕事して見てみるとまだいた。
もう一仕事して見てみる。
いない!
ジャマなワゴン車め。
私はワゴン車の向こうが見える場所まで行ってみた。
9時45分まではいたのにやっぱりいない。
迎えが来たのだ。
残念ながら、迎えの車を見ることはできなかった。
なんか修羅場があるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのに。
でも、ネタにはした。

↑五木ひろしもクリックしてね。
スポンサーサイト