いやな予感はしていたのだ。
なにしろ今日は暑かった。
なのに窓も開けてなかった寝室は、もんわりと亜熱帯気候になっていた。
私は、いくらなんでも、というほどではないと思うのだが、
ちづるの、いくらなんでも早すぎる、という判断でエアコンを付けることは認められない。
かと言って、認められた扇風機は出すのがとてもめんどくさいクローゼットの中だ。
昨夜は夜ふかしをして睡眠不足だったから、早くぐっすり寝たかったのに。
いや、睡眠不足なのだから、少々ホッティでも眠れるのではないか。
ボリュームを絞った音楽を流し、うちわを片手に目を閉じる。
ぱたぱたぱた、ぱたぱたぱた、ぱた、ぱた、、、、ぱた、
うちわであおぎながら眠れるなら、腕立て伏せしながらでも寝られるわーい!
とりあえず、足の裏とふくらはぎにサロンパスを貼って寝た。
それでは寝られないので、汗っぽいところにシッカロールをポンポンした。
それでも寝られないので、青竹踏みをした。
でも寝られないので、熱冷まシートをおでこに貼った。
で、寝られないので、枕をアイスノンに替えた。
これが効き目を奏したのか、うすら睡眠状態にだんだん落ちていった。
あいまいになった意識の中で、ああこれで眠れる、とぼんやり考えていた。
ここまでぼんやりになったんだから、そのまま眠ってしまえばいいのに、
小学校時代から落ち着きがないと言われ続けた私は、この状態でよそ事を考え始めた。
今、口は開いているのだろうか、閉じているのだろうか。
感覚が徐々にレム方面に誘われ、自分の状態を見失っている。
睡眠感を失わない程度にくちびるあたりに集中してみる。
歯のあいだには隙間がある。
おそらくあごがリラックスした状態なのだろう。
これなら、くちびるに隙間があったとしてもなかったとしてもおかしくない。
自分が口を開いているかどうかは、口を開けるか閉じるかしてみればわかる。
問題は開けるか閉じるかだ。
もし現状で口が閉じていたなら、脳から「口を閉じてみろ」と命令するのはおかしい。
「口を閉じる」+「口を閉じる」で「口をつぐむ」みたいになってしまうではないか。
これはちょっと間抜けでおかしい。
でも、わざわざ人に話すほどのことでもない。
「一人屁を放りおかしくもなし」の部類だ。
では、口を開いてみるか。
これも、現段階で口が少しでも開いているならおかしな話だ。
少し開いている口を、もっと開く。
たとえば、私を見守る先祖の霊が上から見ていたとしよう。
ちょうどよだれを垂れる程度に開いていた口が、もう一段階開く。
「おっ、コイツ今口を開いたぞ。夢で『あーんして』とでも言われたか」
などと思われないか、考えただけでも赤面ものだ。
そこで私が思いついたのは、舌で裏側から口の開き具合を探って見る方法だ。
この方法の素晴らしいところは、すぐ実行出来るところだ。
歯の隙間から、少しだけ舌を出してみる。
閉じている。
クチビルは閉じられているぞ。
私は口を閉じて寝ようとしていたのだ。
これで天下御免、心配なく眠りにつくことができる。
それにしても、眠りに落ちる寸前の些細なことを、
よくぞ覚えていた事ぞ、ワシ。

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