連休初日の朝、休みとはいえ最低限の身だしなみは大切と思い洗面台の前に立った。
左目が何やらネトネトするので顔を洗おうと思っただけだ。
鏡に映った私の左目がなんだかおかしい。
なんだかいつもより黒目がちに見える。
ぐっと近づいてみて驚いた。
血だ。
真っ赤だ。
何事だ。
さて、鏡に映った自分の目のことを他人に伝えるのは難しい。
真っ赤なのは、私の左目の黒目より左側のやや下寄りだ。
鏡の私からしたら、右目の黒目より右側のやや下寄りになる。
ただし、私から見た鏡の私では、左側の目の黒目より左側のやや下寄りだ。
「私の左目の黒目より左側のやや下寄り」でやめておいたほうがわかりやすかったか。
ともかく、そこが真っ赤なのだ。
充血して血管が見えているのではなく、血が溜まっているように見える。
まるで血の涙だ。
もっとよく見てみよう。
さて、鏡に映った自分の目の黒目以外の部分を見るのは難しい。
黒目の左側が見たいからといって、素直に左を見てしまうと見たいところが見えなくなる。
黒目が左側に移動するから、黒目より左は目尻の後ろに隠れてしまうのだ。
となると、黒目を右側に移動させなければならない。
つまり、右を見るということだ。
右を見ると、左目の黒目より左側が露出するのでその部分が鏡に映る。
しかし、視線は鏡から外れ、右の棚に置いてある歯ブラシを見ている。
黒目が右側に移動しているからだ。
肝心の見たい部分、患部は目の端に入っているだけだ。
この場合の『目の端』というのは『黒目より左寄り』などという『端』ではなくて、
視界の端の方、なんとなくぼんやり見えているあたりのことを言う。
状況に応じて機転が利くという意味で『目端が利く』という言い回しがあるが、
実際は目端なんて利かない。
目の端に映ったものを見ようとしてしまうのは、人間の素直な反応だ。
視界の端に、赤い目の端が入った途端についそっちを見てしまう。
ただ、そっちを見た瞬間に、当然見たいところは隠れてしまう。
残像さえ見ることはできない。
サッと視線を移した瞬間、鏡の自分と見つめ合っているだけだ。
しかも、視線だけサッと動かしたのなら、アラワタシッタラバカネホホホ、で済むのだが、
顔ごとサッとそちらを向いてしまった私。
「今、あなたが見つめているのはアホウです」という状態だ。
さて、鏡に映った自分の目の黒目以外の部分を見るには、黒目以外の部分が動かなくてはならない。
黒目の左側を見るには、黒目は鏡をみつめたまま、顔を左に向けていく。
そして、黒目の下寄りを見るには顔を下げればいい。
すると、視線の中心である黒目のすぐ横に見たい患部が見えている。
今、鏡に映っているのは、右上を見ているおっさんだ。
ただし視線はこちら、つまり、下からこちらを睨めつけている格好になる。
しかも、目が真っ赤で、難しいことを考えながらやっているので口元まで歪んでいる。
我ながらホラーだ。
ちづるにも見てもらった。
医者に行けと言われた。
二時間待って「ほっとけば治る」と言われ、目薬をもらってきた。

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