ついに第一回ことわざ大賞が発表された。
大賞には大方の予想通り『月とスッポン』が満場一致で選ばれた。
短い文章で端的にその意味を表現している点、
そしてその言葉のチョイスが高く評価されたものだ。
大きくかけ離れた事例AとBを表すのに、これほど見事な単語があるだろうか。
この賞では、初めてそのことわざを口にしたであろう人物の能力が考慮される。
「AとBはまるで月とスッポンだなあ」
と初めて言った人物はただものではあるまい。
高い教養とセンスを兼ね備えた才人であっただろう。
例えば似た表現に「天と地ほど」というのがあるが、これは相対する二つを並べただけだ。
また「提灯に釣鐘」は似た形状のものであるなかで、内容の違いを表している。
それらの方法も間違ってはいないのだが『月とスッポン』の前には霞んで見える。
誰でもが目にする夜空の唯一物である『月』に対照させたのがなんと『スッポン』
『亀』でなく、言葉の響きもいい『スッポン』が見事にマッチしている。
本来なら『鼈』という漢字があるのだが、その意味合いからあえてカタカナにさせていただいた。
それではほかの候補作を見ていこう。
大賞受賞作の対抗馬となったのが『壁に耳あり障子に目あり』だ。
これも見事な表現だ。
こそこそうわさ話をする時など、このことわざの情景が目に浮かんでくる。
また語呂がいいので、文章の長さが気にならない。
初めて口にされた時から生き残るべきことわざであっただろう。
『月とスッポン』が参加していなければ、大賞間違いなかった作品だ。
ほかに惜しかったノミネート作に『河童の川流れ』がある。
いかにも呑気で、ほのぼのとした趣がある。
ただ、『弘法も筆の誤り』や『猿も木から落ちる』と同じ意味だとしたら、
名人の失敗、という感じはあまり受けない。
河童が自分の意志で気分よく流されているイメージが残る。
この点が、マイナスに評価された。
『二階から目薬』はその着眼点に高い評価が集まった。
しかし、時代的考証をすると、いささか庶民的なイメージが薄い。
当時は二階のある家も薬も一部ブルジョアのものであったはずだ。
一般大衆がこのことわざを使うには随分の時間がかかったことだろう。
ことわざ大賞には少し新しすぎたのかもしれない。
『虎穴に入らずんば虎子を得ず』はあまりにも固いその言い回しが嫌われた。
内容は的を射ているのだが、あまりにも中国の故事成語の要素が強すぎる。
「腹が立った」と言えばいいところを、
「看過できない事態であり、真に遺憾に感じる」
などと言う政治家のようだ。
『ぬかに釘』は大賞とは逆に短すぎた。
実際、ナスのぬか漬けには色を出すために釘を入れたりする。
だからここは『ぬかに釘を打つ』でなくてはならなかった。
縮めすぎた悪例のひとつだろう。
また、言葉のチョイスがあまりにも身近すぎるのも野暮に感じるところだ。
『猫の額』とは狭さを表すために使われる。
これはどうなのだろう、実際に猫の額は狭いのだろうか。
額と言うと毛が生えてない部分だと考えられる。
ケモノであるからそれを差し引いても、猫が突出して額が狭いとは思えない。
うまく言えていないことわざの一つではないだろうか。
それぞれへの選評は以上のようなものだった。
大賞作はレベルが高く、また様々なジャンルからことわざが集まった今大会は、
成功だったと言えるだろう。
ただ、数多いことわざの中で大賞を決めるに当たり、
ノミネートが七つというのは少なすぎる。
次回はもっと多数のことわざが参加することが望まれる。

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