O川の奥さんが女子会で寿司を食べに行ったそうだ。
行ったのは志摩半島の先端、N岡の実家のあるところだ。
お土産をもらったO川は驚いた。
全ての寿司に、タコやアナゴに塗るような甘辛いたれが塗ってあり、
ワサビではなくカラシが使ってあったという。
これはN岡に訊いてみなくてはならない。
「カラシは知らんけど、ウチの方はよく“煮切り”を使いますよ」
“煮切り”というのが件のたれだ。
漁師町であるN岡の出身地では、自宅で寿司を作り、この甘いたれを使うのだそうだ。
「そういえば、あんたとこは酢味噌もよく使うよな」
とO川が言った。
なんと、刺身を普通に酢味噌で食べるのだそうだ。
実はO川の出身地もN岡のすぐ近くの漁師町だ。
志摩半島には漁師町が点在しているが、それぞれ風習が違うらしい。
さて、問題はここからだ。
大抵の食べ物に文句を言わないO川だが、ごはんにだけはうるさい。
次の日になると寿司がおいしくなくなるので、夜中だったけど無理して食べたという。
それに対し、N岡がとんでもないことを言い出した。
「焼かないんですか?」
「焼く?」
O川と私がハモッてしまった。
N岡の話によると、大量に寿司を作って残ったら、
翌日、アルミホイルに包んでオーブンで焼き、煮切りを塗って食べるそうだ。
ごはんの表面がカリッとしておいしいという。
このとき私は、表面を炙るってことだと思っていた。
そこでこう訊いた。
「でも、中が冷たいやろ」
「中も暖かくなりますよ」
「・・・そんなことしたら、魚が焼き魚にならんか?」
「なりますよ」
「・・・イカとかクリッとならんか?」
「イカはクリッとなりますよ」
焼き寿司だ。
これは一度検索してみなければならん。
「やらないんですか」
「やるはずがない」
「僕、寿司が残ると、朝がけっこう楽しみですよ」
「・・・」
「てこねずしもチャーハンにしますよ」
志摩地方には、“づけ”のカツオなどを酢飯に混ぜた“てこねずし”という郷土料理があるのだ。
この話はO川も初耳だったらしい。
ものすごく興味津々だ。
「電子レンジはしたことあったけど焼いたことはない。今度やってみよ」
N岡があんまりおいしそうに言うので、なんだか私もやってみたくなってきた。
でも、我が家で寿司が残ることはない。

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