頭のてっぺんはサッパリしてきたのに胴まわりにはコッテリ肉が付いてきて、
近くの字は見えにくくなり、遠くの音は聞こえにくくなり、
体のあちこちが痛くなるのだが、それ以外のことはすぐ忘れてしまう。
そのぐらいまで生きてきた。
だけどまだまだ若造だ。
経験してないことがいっぱいある。
やり残したと後悔しなくていいようにできることはしておきたい。
ダルマに目を入れたことがない。
やりたければ自分でダルマを買ってきて黒目を描けばいいのだが、
これにはハードルがいくつもある。
まず、小さいのではダメだ。
片手に納まるようなダルマに筆で目を入れるような細密な作業、
これではまるでこけし職人のようではないか。
ダルマに目を入れるというのはもっと豪快なことのはずだ。
しかし、大きなダルマは高そうだ。
まったく相場がわからないが、わざわざ検索する気も起らない。
よく考えてみたら、ただでくれると言われても欲しくない。
目的は目を入れることだ。
そのあと家に置いておきたくない。
なにより、大きなダルマを家に運び込むところをご近所に見られたくない。
なぜなら、立候補すると思われるからだ。
なんといってもダルマと言えば選挙。
無事当選となったら大喜びで目を入れる。
これから考えるに、なにか想いが成就されたら目を入れるシステムなのだろう。
やみくもに目を入れればいいというものではない。
でも、私の希望はダルマに目を入れることなのだ。
ダルマに目を入れることができたら、ダルマに目を入れてもいいのではないか。
やめておこう。
大きなダルマは二つもいらない。
私のような人間が増えたら、あるいは潜在的な人々が表面にでてきたら、
目の部分がホワイトボードになっているダルマが発売されるかもしれない。
そうなったらレンタルしてみよう。
その時のためにシミュレーションをしておこう。
まず、筆記具というか画材というか、何で描いたらよいものか。
ホワイトボードなら専用のペンがあるが、
本物の場合、やっぱり墨だろう。
で、ただぐりぐりっと塗ればいいようだ。
なにしろ、お手本が選挙しかない。
ダルマに目を入れる権利を得た候補者はみなハイテンションだ。
おそらく絵心はない。
ちなみにヨンホンゲの絵でも黒目を入れるのは結構気を使うのだ。
ちょっとずれただけで視線がヘンな方に行ってしまう。
ひょっとして、だからグリグリと塗りつぶしてしまうのか。
どうかすると、墨をつけすぎて血の涙のようになっている時がある。
アレは惨劇としか言いようがない。
ああそうか、私がダルマに興味を持ったのは、私がダルマだったからなのだな。
頭がサッパリ、胴まわりがコッテリだからではない。
私が血の涙を流し、真っ赤になって怒っているのに手も足も出ない横で、
政治家になった人たちは、こちらの視線も気にせず大喜びで万歳している。
きっと、目を入れたあとは捨てられるのだな。

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