我が家では、美容と健康、ダイエット、便通、満腹感など、
さまざまな効能を期待して、弁当とともにバナナを携帯して出勤する。
キッチンのカウンターに置いてあるバナナの房から、
ちづると私が各々一本ずつちぎって持って行く。
最近、世間に流通しているバナナハンガーなんてものはない。
買ってきたまま、ぽいと置いてあるだけだ。
まさかこんな所から家庭内に不協和音が発生するとは思いもしなかった。
どうかしたら、バナナさえあればシアワセ、ぐらいに考えていた。
しかし、バナナには皆が独自のルールを持っているらしい。
これがぶつかると、もめごとの始まりになる。
バナナが一房あったとしよう。
下の段より上の段の方が一本少ない平均的なバナナの房だ。
ここから一本をちぎり取るとき、どれを選ぶのが正解だろう。
私のルールの基準は、バランスにある。
左右どちらでも構わないが、一番横にはみ出したものを選ぶ。
なるべく全体のフォルムをこっちりさせていたいのだ。
ただし、これには特別ルールがある。
下の段をとった場合、上に乗っている一本が下に落ちるようであれば、
その時は上の段の一本をとる、という項目だ。
こうしないと、つながったまま下に下がった一本の軸部分に負荷がかかり、
そこから痛み始めてしまうのだ。
このようにきっちりルールが定まっているのだから、
一本取った後は、自然と次の一本が決まる。
だから、ちづるが想定外の一本を選ぶと納得ができない。
不作法でガサツな無法者め、と心の奥底で毒づく。
ところが、ちづるにはちづるなりのルールがあった。
やつはなるべく床面に接しているのを選んでいたという。
重みがかかっている部分から痛み始めるというのが言い分だ。
基準が違うのだから意見が合わないのは当然だ。
意見が合ったのはシールについてだ。
バナナにはなぜか必ずシールが貼ってある。
ルール通りに選んでいき、シール着きを手にすると当たりのようでちょっとうれしい。
だが、もう一つのシールは許せない。
袋に入って売っているバナナは問題ない。
安売りのムキダシで売っているバナナには、
バーコードのついたスーパー独自の大きなシールが貼ってある。
あれは不愉快だ。
できればちづるに押しつけたい。
そう、最初は選ぶルールだったが、あるときからルールは崩壊し押しつけ合いになる。
ちづるの言うようにバナナは痛みやすい。
色が変わり始めたら、なるべく早く食べた方がいいと思われるものを選ぶべきだ。
もちろん、私だってそのぐらいはわかっている。
ただし、ある限度を過ぎると自分で食べるのはイヤだと思い始める。
熟したバナナはもろくなる。
一本をとろうとしたはずみで、別の一本が軸からもげかけたりする。
そこからは中身が見えている。
食べる部分が露出しているのはいやだ。
これはちづるに食べさせてやれ。
お互いが相手のバナナルールに不満を持っていながら、
それを口にすることはなかった。
なぜなら、朝バナナをとるとき以外、それが頭になかったからだ。
昨夜、私が、
「明日はバナナのネタを書こう」
と言ったことが発端となり、バナナルールについて初めて話し合いが行われた。
で、お互い相手のルールを知ることができたのだが、
双方自分のルールを変えるつもりはないのであった。

↑痛む前にクリックしてね。