会社で仕事中にマスクが欲しくなり、
そうだ、確かあそこに、とマイコンテナを久しぶりに開けた。
個人のロッカーのないわが社、
自分の荷物用にホームセンターなどで売っているコンテナケースを使っている。
中にはマスクとケータイの充電器、
そしてレジ袋に入ったTシャツが一枚。
うおー、まだあったのかー。
私はとても汗かきだ。
なので夏場は着替えをもってたのだが、何枚あっても足りない。
そこで、このコンテナに一杯Tシャツを入れておいた。
汗をかいたらここから出して着替え、
Tシャツが少なくなったら家から補充する。
こうすれば着替えを毎日持ち歩かなくてすむ。
それが一枚だけ使われずに会社に残っていたらしい。
このまま夏まで置いておくのもなんだし、
こんな辺鄙なところでひとりでいたのかと思うとかわいそうになってきて、
家に持ち帰って洗濯することにした。
Tシャツ、と書いたが、実際はノースリーブだ。
冬場は半そでTシャツにトレーナーが多いが、
暖かくなるとずっとノースリーブしか着ない。
先にも書いたように、汗かきな私は夏場、かなりの枚数を消費する。
洗濯すれば生地は痛む。
ゴムは伸びる。
縫い目はほころびる。
新品がだんだん肌になじんできて、
なじみ過ぎ、使い過ぎ、
二軍に落ち、やがて会社のウェスとして使われる。
このサイクルは早い。
数か月の空白を経て帰ってきた彼。
「よお、久しぶり」
「お、おまえ、無事だったのか」
「あたぼうよ」
洗濯カゴ、物干し場、押し入れとあちこちで懐かしい顔とめぐり合う。
みんなずいぶん年を取った。
色あせている奴もいるし、裾の伸びてしまったやつもいる。
逆に新顔も増えている。
「なんだい、あの生地の変わったやつは」
「ああ、あいつはもらいもんでね、ワシらのような3枚千円とは違うのさ」
「おや、いつの間にか親父の中国旅行土産のTシャツがいばってるじゃねえか」
「なあに、あいつらは畑作業用さ。あのプリントじゃお出かけには着られねえ」
「あいつの姿が見えねえな。確かまだ若かったはずだが」
「いきがってたからなあ。タグがちくちくするからってお払い箱さ」
ほんの少しの間、と思っていても、世間の変化は想像以上に早い。
ちょっと通らなかった道路の風景がすっかり変わっていたりする。
でも押し入れの引き出しの変化はそれよりずっと激しい。
「で、オレと3枚セットで売られてた兄弟分はどこだい」
「そ、それが・・・」
「なんだ、まさか区の資源回収小屋に出されたんじゃねえだろうな」
「いや、あいつはスナフキンの服みたいに裾が伸びちまって、
機械を拭くウェスとして会社に持ってかれちまったんだよう」
「なんだって。じゃあ・・・オレのいたコンテナのすぐそばに・・・」
「うわー」
何でもいいけど、Tシャツには名前をつけてないのでセリフモノはやりにくい。

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