人間という生物は、よほどめんどくさいことが嫌いらしく、
やりたくないことをやらずに済むように、
頭を使って、いろんなものを発明してきた。
おかげで文明はどんどん発展し、
人間はいろんなやりたくない事柄から解放されてきた。
やりたくないことをやらずに済む。
それは確かに楽でいい。
しかし、何かをやらなくていいようになれば、
そのための能力は、文明に反比例して、どんどん衰えていくのだ。
それは、人間の進化が急激であったように、
とても短いサイクルで退化していく。
昨日のこのコーナーにも書いたが、私は昨日、大量のネギをきざんだ。
いただきモノのネギをひと束、ボールに一杯のきざみネギが出来上がる大仕事だった。
その作業の途中で私はある能力の衰えに気がついた。
そして、それについて熟慮し、ある結論を得た。
ティッシュペーパーが普及したせいで、われわれ人間の『ピンコ力』は衰えている。
ちなみに、
『ぴんこか』
ではなく、
『ぴんこりょく』
だ。
説明しよう。
『ピンコ力』とは、伸びようとする指を、他の指で伸びられないように抑え、
その抑えが外れた瞬間、瞬間的に伸びた指がモノをはじく力のことだ。
たとえば、おはじきをはじいたり、デコピンをしたりするときに使われる。
この力が最も必要だったのは、指についたハナクソ的なものを、
ピーンとどこかに飛ばしてしまう時だった。
とても下品に聞こえるかもしれないが、これは話をわかりやすくするための便宜上の表現だ。
指先にひっつく程度の粘り気と、指先に存在してもおかしくない理由があり、
ピンコ力を駆使して、自分から遠ざけたいもののひとつの例として、
“ハナクソ”的なものという単語を選んだだけで他意はない。
決して私がハナクソをピンコピンコしていたというのではない。
そこんとこは理解しておいてもらいたい。
で、今の主役はネギだ。
大量のネギをきざむのは一度では無理だ。
数回に分けてきざんでいく。
ひと束のネギをきざみ終わると、抑えていた左手はネギまみれだ。
とりあえず掌のネギは両手で払い落す。
でも、指についたネギはなかなかしつこくひっついている。
こんな時こそ、ピンコ力が必要だ。
ひとさし指から順にピンコしていく。
中指、薬指、そして小指。
ここで人は愕然とするのだ。
小指がうまくピンコできない。
ピンコ以前に抑えの親指が小指に届いていない気がする。
かろうじて触れているぐらいだ。
考えてみれば、人体のこの部分においてストレッチをしたことがない。
硬くなっているのだ。
ティッシュがあらわれ、ハナクソ的なものをピンコせずに、
ふき取るようになった人類。
こんなところにも衰えは現れているのだ。
そして、これを書いている私。
いったいこの話題をどこに着陸させようとしているのか。
それはピンコされたハナクソ的なもののように、
行く先はわからないものなのだ。

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