昔と比べて、オムライスは変わった。
あんなにこっちりしていたのが、今ではだらんだらんになってしまった。
材料が同じなだけで、別料理といってもいいぐらいだ。
オムライスの定義を見てみよう。
広辞苑によると、
『ケチャップなどで味付けした米飯を玉子焼きで巻いたもの』
となっている。
オム感ゼロの説明だ。
この説明はむかしのオムライスを表わしている。
私が子供のころ、オムライスといったら、
型にはめたチキンライスを薄焼き卵で巻いたものだった。
やや筒状で両端が細くなっていて、センターにケチャップがかかっている。
わかりやすく言うと、『目』のかたちだ。
二皿並べたらよくわかると思う。
ただし、目だとしたら、充血していて黄疸が出ていることになる。
ちょっと食欲はなくす。
私は当時から不思議に思っていたことがある。
中がケチャップ味なのに、なぜ更にケチャップをかけるのか。
これはおそらく色合いだろう。
卵に全体を覆われたこの料理は、ケチャップをかけないとただの黄色いカタマリだ。
どちらかの端にエノキを二本おけば、キイロオオナメクジの出来上がりだ。
また食欲をなくすことを言ってしまった。
そこで、彩としてケチャップがかけられる。
グリーンピースが乗ったり、パセリが添えられたりするのも同じ理由だ。
ただかけるのはつまらない、そう思って字を書く輩が現れた。
オムライスの上にケチャップで字を書くのは、
ケーキの上にチョコレートやクリームで字を書くのとは意味合いが違う。
なぜなら、ケチャップは調味料だ。
オムライスの上のケチャップの文字は、
料理界で唯一、味の事を無視して振舞われる調味料なのだ。
『好き』とか『うっふん』なんて書いているうちはいいが、
心に熱いものがあって『情熱』とか『襲撃』とか書かれたら、
動脈硬化などにも影響が出てくる。
何も悪い言葉を例にすることはないが、
良い言葉だったのしても『献血』なんかだと食欲を失うだろう。
では、今のオムライスはどうなっているか。
テレビで見ていると、流行は半熟卵だ。
チキンライスの上にオムレツを乗せ、
ふたつに割るとどろどろの中身がチキンライスの表面を覆う。
これは広辞苑のオムライスの定義からは外れている。
しかし、良い面も多い。
私のような半熟好きにはたまらない。
上にケチャップをかけないので、目の形には見えないし、
不謹慎な文字を書かれることもない。
だけど言いたいことがある。
これだとチキンライスの上に卵が乗っかっているだけだ。
たとえば喫茶店でイタリアンスパゲティを注文すると、
アツアツの鉄板に卵を敷いて出てくる店がある。
同じケチャップ味で、卵が上か下かの違いだ。
とろとろ卵ぐらい、チキンライスという注文に、
サービスでつけてもいいんじゃないの?

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