世の中は山の日でお休みだが、我が家では和尚さんが来てくれる日だ。
正式には『棚経』というらしいのだが、棚卸しを思い出すのでやめてもらいたい。
ともかく10時半に和尚さんが来る前に、実家の風通しや掃除をしなくてはならない。
9時に家を出ることにしよう。
和尚さんがいる時間は短いから、そのあと母のいる施設に行こう。
届け物があるので、ついでに面会の予約を取った。
最近またコロナが増えてきているというので予約制で15分と決められてしまった。
棚経が終わったら戸締りをして弟一家とは解散。
ちょっと手土産を買って施設に向かう、という段取りだ。
和尚さんが帰り、家の奥から戸締りをしていく。
最後が仏壇のある玄関横の部屋、ここを閉めたら出発できる。
のだが、困ったことに和尚さんが付けていった線香がまだ立ち消えていない。
火の気があるうちは帰れないし、故意に消すというのは先祖に怒られそうな気がする。
まだそんなにあわてる時間でもないので、消えるまで弟たちと歓談しよう。
途中で寄ったスーパーが混雑していて、施設に着くのが正午前になってしまった。
車を停めてガラス張りの食堂を見ると、母がもう食事をしている。
正午から1時間は面会時間ではないので、届け物だけ渡して、遠目に母の姿を見て帰ろう。
受付をして、スタッフの人と話していると、シルバーカーを押した母が通りかかった。
スタッフさんが呼んでくれたのかと思いきや、食事が終わったらしい。
サインしなければならない書類があるというので、母の部屋で面会させてもらえることになった。
「こんな所までよく来てくれたねえ」
「ここまで来るのにかなり時間かかったやろ」
「帰りに乗せてって」
と会話はいつも通りの繰り返しだが、調子はよさそうだ。
こちらから訊いても、特に欲しいものもないという。
ちょっと心配だったのは、テレビのリモコンがどこにも見当たらないことと、
ティッシュの箱の上面がちぎり取られていることぐらいだ。
帰る時間になったので母と一緒に部屋を出る。
母は私たちを玄関で見送ろうとしてくれるが、みんながいる食堂に誘導する。
私とちづるが外に出ると、スタッフさんが母を食堂の窓際に連れて来てくれた。
こちらが手を振ると母も大きく手を振って返してくれる。
ガラス戸を開けようとしてスタッフさんに制止されている。
車を出すとき、なるべくそちらの近くまでバックさせた。
運転席からは見えないが、ちづるが窓から手を振る。
「こっちに気付いた?」
「気付いた、知らんおっさんも手を振ってくれた」
ありがたいことや。

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